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2011年7月

ふがいない僕は空を見た

高校生の斉藤卓巳はコスプレ主婦のあんずと不倫。友だちの福田や、斉藤のことが好きな松永、助産婦をやっている斉藤の母親たちもそれぞれ悩みを抱えながら精一杯生きていく。

「『本の雑誌』が選ぶ2010年ベストテン」の第1位、「2011年本屋大賞」第2位ということで期待度高く読み始めましたが、しょっぱなの第1話は、何だこれって感じで正直落胆しました。単に性描写があけすけなだけの、少し壊れ気味の登場人物たちの物語。今風といえば格好いいのか若者風と表現すれば聞こえがいいのかよく分かりませんが、話自体は全然面白くもなければ感動もなし。もちろん考えさせられる要素もなく、途中で放り投げてしまおうかと思ったほどでした。しかし第2話以降で徐々に落ち着いた人間描写に変わっていき、最終話・斉藤のお母さんのエピソードでは、第1話ととても同じ物語とは思えない作風に思え、驚きでした。各エピソードを書いていくうちに作者の腕が上がったということなんでしょうか。とはいえ、絶賛されるほどの小説なのかと問われれば、「いや普通」と答えるしかないでしょうねえ。進化度が高いのであれば、次回作あたりはかなりの名作になるのだと期待して待ちましょう。

オススメ度:☆☆☆

ふがいない僕は空を見た ふがいない僕は空を見た

著者:窪 美澄
販売元:新潮社
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【訃報】 小松左京さん死去

巨星、堕つ!
日本SF界の巨人、小松左京さんが7月26日、亡くなられました。享年80歳。
私にとっては、SFなるものの面白さを知ったきっかけを与えてくれた作家さんの一人で、昭和のSF隆盛期を支えた小松さんと、ショートショートの神様・星新一さん、今も第一線で活躍されており、強烈なセンスの持ち主・筒井康隆さんの3名のおかげでどっぷり頭の先までSFの魅力に浸かってしまうこととなっていた時期がありました。
その小松さん、最近は体調もかんばしくないと聞いていたのですが、その原因として、『日本沈没』のようなテーマで小説を書いていたのにもかかわらず、かの阪神淡路大震災に対してご自分が無力だったことを相当気に病んでおられたようだったとか。たしかに、高齢ということもあったでしょうが、かつてのエネルギッシュな風貌からはちょっと想像もつかないほどの憔悴した感じになっておられたのをテレビでお見受けして、かなりショックでした。そしてついに…
小松さんと言えば何といっても大ベストセラー・『日本沈没』が代表作ですが、なぜか私はこの作品は未読なのです。先に映画(古い方です。リメイク版も観ましたが)を観てしまったからかな…なので私の中では小松さんの長編SFの代表作は、『果しなき流れの果に』であり、『継ぐのは誰か?』や『日本アパッチ族』なのです。そしてまた小松さんの作品には中篇くらいの長さの小説群にもすごい作品が数多くあり、一冊読み終えた後の、”ガツンと頭を殴られた”感は今でも忘れることができないのです。もしかしたらあのインパクトを味わいたいがために今も次から次へと小説やマンガを読み漁っているのかも知れません。最も好きな作品は…難しいですね。名作ホラー・『牛の首』や『くだんのはは』もすごい作品でしたが、後の長編SF小説・『首都消失』に繋がっていく、『霧が晴れた時』や『夜が明けたら』などの雰囲気が妙に好きだったりします…またどこかで読み返してみたいですね。
私の人生の方向性に多大な影響を及ぼしてくれた偉大な作家に敬意と感謝の念を払いつつ、ご冥福をお祈り申し上げます。

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プリンセス・トヨトミ

会計検査院の調査官・松平は、検査先の大阪で歴史の陰で連綿と続いてきた「大阪国」の存在を知る。一方、その「大阪国」の鍵を握る二人の少年と少女が大阪の商店街で日々の生活を送っていた。ある日、少年は大きな悩みを持ちながらも勇気を持って決断を下したのだったが…

前作・『鹿男あをによし』は異色のファンタジーで、舞台は奈良でした。個性的で面白いことは面白かったのですが、その独特の世界観にとまどいも覚え、今ひとつ消化しにくい感じもありました。今回は大阪を舞台に裏歴史のお話。関西シリーズですね。作者自体が大阪の出身だからでしょう、大阪の人間の特徴というか性分がうまく描かれていて何度も笑いました。そこに会計検査院という役所を絡ませる発想がユニーク。私はこの役所の名前は篠原涼子主演のテレビドラマ・『黄金の豚』で初めて知ったのですが、本作で登場する3人の調査官がそれぞれ味があり、大阪の人々も含めて人物造形もグッド。さらにストーリー展開や全体の構成もバランスよく、一級のエンターテインメントに仕上がっています。一気読みなんてしたのは久しぶりのことでした。これですよ、これ。
映画化されて、現在公開中…だったと思います。もう終わっちゃったかな?

オススメ度:☆☆☆☆

プリンセス・トヨトミ (文春文庫) プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

著者:万城目 学
販売元:文藝春秋
発売日:2011/04/08
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ペンギン・ハイウェイ

小学四年生のアオヤマくんは、突然街に大量発生したペンギンの謎に挑むことになった。どうやらこの謎には彼の大好きな歯科医院のお姉さんが関係しているようだ。少年は見事この謎を解けるか?

第31回日本SF大賞受賞作ということで、期待したのですが、これを果たしてSFと言っていいものかどうか。たしかにSFの定義なんて、広義ではかなりのところまで含めてしまうので、その意味ではいくらでもSFの範疇に入れておけば良いのでしょうが、さすがにSF大賞ともなれば、もっと他にハードSFなり、毛色の変わった作品がなかったのかと不思議に思いました。全体に不作だったのでしょうか。本作はSFといってもファンタジーというか、いっそ児童文学のような感じの作品で、おませな少年とお姉さんの掛け合いは大変面白いのですが、SFに必須の「センス・オブ・ワンダー」という点ではかなり物足りなさが残ります。主人公の少年に近い年代の人が読めば、けっこう心に響く部分もあるのかも知れませんが…アニメ化して、『河童のクゥと夏休み』みたいな作品に仕上がれば、また違った色が出て良いのか…な?

オススメ度:☆☆☆

ペンギン・ハイウェイ ペンギン・ハイウェイ

著者:森見 登美彦
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
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贖罪

空気がきれいというくらいしか取り立てて特徴のない田舎町で起きた少女殺害事件。いっしょに遊んでいた4人の女の子たちが、その後たどった運命とは?彼女たちを襲った悲劇の連鎖。

ベストセラー・『告白』で一躍人気作家の仲間入りを果たした湊かなえの受賞後第一作(と書いてありました)。前作でも見せた、運命に、というか人間関係の機微が生み出してしまった奇妙な事件に操られる人々の人間模様を描いた連作集です。全体の雰囲気は悪くないし、個々の事件と全体像を少しずつ明かしていくやり方もそろそろ確立されてきているようでそれなりに味があります。あとは『告白』の第一話で見せたようなインパクトのある演出をコンスタントに出していけるか、あるいは本格ミステリーのテイストを取り入れた作風にしていけるかで私好みの作家になるかどうかが決まるでしょう(笑)…まあそれはともかく、『少女』(こちらが受賞後第一作のようでもあるのですが、違うのかな?…まあどうでもいいんだけど)のときは、あまりのひどさにどうなってしまうかとゲンナリしていたので、少し安心しました。

オススメ度:☆☆☆

贖罪 (ミステリ・フロンティア) 贖罪 (ミステリ・フロンティア)

著者:湊 かなえ
販売元:東京創元社
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【訃報】和田慎二さん 逝去

2011年7月5日、漫画家の和田慎二さんが亡くなられました。享年61歳でした。

和田さんといえば、なんと言っても名作『スケバン刑事』ですね。それこそマンガ的というか、学生が刑事として学園に潜入し、事件を解決するという、基本設定はかなり無茶なものがありましたが、マンガらしいコメディもあいだあいだに織り交ぜながら、本筋でのダイナミックなストーリー展開はエンターテインメントの真骨頂といえるだけのものがありました。テレビドラマにもなり、斉藤由貴主演の第一作目は原作を中途半端に実写化しようとしてイマイチだったのですが、二作目は良い意味で原作からかけ離れた娯楽性たっぷりの作品で、一気にブレイク。映画化もされました。伝奇風のテイストをベースにした浅香唯主演の第三作目もなかなか面白かったですが、やはりイチオシは南野陽子の土佐弁が特徴の第二シーズンでしょう。その後松浦亜弥主演の映画が第4弾として製作されましたがこちらはヒットせず。マンガを実写化するのはかくも難しいのですよね。たしか原作に忠実なアニメ版もあったはずですが、私はまだ観ていません。
他の著作では『超少女 明日香』のシリーズもずいぶん前ですが最初の2、3冊を読んで面白かった記憶があります。
麻宮サキの物語が永遠に語り継がれていくのと同時に、和田慎二の名も永遠にマンガ史に刻み込まれていくことでしょう。
ご冥福をお祈り申し上げます。

スケバン刑事 (1) (MFコミックス) スケバン刑事 (1) (MFコミックス)

著者:和田 慎二
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コンピュータvs.プロ棋士

渡辺竜王とコンピュータソフト・「ボナンザ」の激闘から早や3年。2010年10月11日、コンピュータ将棋ソフト「あから2010」が、プロ棋士である清水市代元女流4冠を破るという歴史的な出来事が起こりました。本書では、そのドキュメントに加え、コンピュータソフトの開発者たちが将棋や囲碁などのゲームで人間と対戦するプログラムを作成してきた歴史を振り返り、その実際の過程を検証したり問題点や今後の展望を分かりやすく解説した読み物です。読みやすく書いてある分、専門的知識のある人には少々物足りないかも知れませんが、その辺はまた他に本があるでしょう。
私も多少プログラミングをかじったりしているので大体のところは想像できていたのですが、実際に将棋ソフトを組んだりしたわけではないので、コンピュータにとって「手を読む」のと「局面を評価する」のは別のことだというのはこの本を読むまで気がつきませんでした。人間はこれを同時におこなっているのですね。凄いなあ…その凄い人間のプロ棋士をとうとう破ったというのだから、将棋ソフトの進歩ぶりは目を瞠るものがあります。ちなみに「あから」とは、無量大数より大きな数の単位なんだそうです。これも凄い。まあしかし、今回快挙を成し遂げた事実も厳然とあるとはいえ、将棋のみならずチェスでさえも、まだまだ全体ではコンピュータソフトが人間を超えたとは言えないそうです。著者によれば、今回の対決も、清水女流王将がコンピュータに合わせて戦った感が強いらしく、その気で”勝ち”に行けば、まだまだコンピュータが人間の牙城を崩すのは困難だとか。しかしどちらにせよ、こういった戦いはこれからさらにヒートアップしてくることは間違いなく、目が離せませんね。
そして今回の「あから2010」ですが、複数の有名な将棋ソフトの合議制を採用したシステムだったというのも興味深々でした。『エヴァンゲリオン』の「MAGI」みたいですね。まったく、あのアニメの先見性には恐れ入るばかりです。

オススメ度:☆☆☆

コンピュータVSプロ棋士―名人に勝つ日はいつか (PHP新書) コンピュータVSプロ棋士―名人に勝つ日はいつか (PHP新書)

著者:岡嶋 裕史
販売元:PHP研究所
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